車いす街歩きイベントで発見したことは,移動の目的は人とつながるということ
作業療法学科の上江洲です.
回復期リハビリテーション病棟に勤めていた15年ほど前,
患者さんがなじみの店や行きたい場所に行けるのか不安だと,相談を受けることがありました.
その頃から休日に食事や買い物する場所のトイレを撮影するようになりました.
2010年の前後2年で200箇所の情報を集めましたが,
このデータをどこで,誰のために,どのように役立つのか,
分からないままに1人で写真を撮影を続けていました.
その後,琉球リハビリテーション学院の作業療法学科教員となった時,
授業の一環で学生とバリアフリーマップを作成しました.
昼間主,夜間主の学生70名を3名1グループに分け,
休日に訪れた店や場所あるいは行きたい所の写真を集めてもらいました.
トイレだけではなく駐車場,入り口までの通り道も含めて調査し,
段差がある場合は介助する方法も説明に加えてもらいました.
車いすを1人で駆動するパターンと介助者をサポートできる,
バリアフリーになっていない店,公園,施設を批判する情報ではなく,
課題を自身で解決でき,それを共有する輪を広げたいと願っていました.
収集した情報は新人の頃に担当した脊髄損傷を患った患者さんに渡し,
情報共有サイトを立ち上げて公開してもらいました.
しかし私の退職を機にサイトは断ち消えてしまい,
継続できなかったことに対する無力感はずっと心に残ったままでした……
2022年11月20日,
みんなでつくるバリアフリーマップ「WheeLog!」
車いす街歩きイベントin那覇に参加しました.
https://wheelog20221120.peatix.com/
車いす街歩きは,車椅子に乗って街中を巡る体験型イベントです.
普段から車いすを使っている方,使っていない方が混じる5名程度のチームを作り,
与えられたミッションをクリアしていくゲームの要素も入っていました.
今回,琉球リハビリテーション学院の作業療法学科から教員が3名,学生が3名参加しました.
私たちのグループはおもろまちからモノレールを使って波の上ビーチまで移動し,
いく先々でトイレや駐車場,スロープの写真を撮影しました.
スタート地点のおもろまちに戻った後,各グループに分かれて気づき,改善できる点,
物理的環境や人の課題と強みについてグループで協議し,全員で共有しました.
この経験を通したからこそ,発見できたことがありました.
私のグループには脳性麻痺を抱えて暮らす若者とご両親がいらっしゃいました.
トイレに介助ベッドがなければ外出できないこと,
ユニバーサルトイレという情報だけでは家から出ることに踏み切れないこと,
失敗した体験が脳裏から消えないこと,
公共機関は助けを求めれば手を貸してくれることが多いが,
そのためには手配や申請の手続きが必要不可欠であること,
障がい者の分身ロボットが働くカフェ
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2019/15633
で重度の障がいを抱えていても働くという選択肢がイメージできること,
できないことが増えてもやりたいことをあきらめる理由にはならないこと,
移動や移乗の先にあるのは行きたい場所だけではなく人と人の関わりがあること.
これからの点についてメンバーで話し合い,互いの意見や経験を共有しました.
WheeLog(ウィーログ)代表者の織田友里子さん,開発者の伊藤忠人先生,
吉藤オリィさん,さらに三代達也さんも加わった貴重なメンバーによる,
これからの未来,障がい者という枠組みを超えた町づくり,ネットワークについて
議論が明るい雰囲気で展開されました.
作業療法士は症状や疾患ではなく,人をみています.
生き方,人生と表現すると大げさのように聞こえますが,
病院を出て生活すること,楽しむこと,働くことのすべてにおいて,
責任と関心を抱いている専門職です.
私たち作業療法士はもっと地域へ足を運び,
当たり前の生活が困難になっている人たちと関わり,
私たちに何ができるのか知る機会が必要かもしれないと感じました.
作業療法の魅力と可能性は作業療法士だけではなく,
作業療法を必要としている方々と一緒に模索し,
少しづつ形作っていくものだと気づきました.
私たちの培ってきた経験が,いつか求めている人たちへ届くように,
日々できることをコツコツと重ねたいと思いました.