2022.04.01 (金) コラム
高齢者および認知症と自動車運転
今回は、「高齢者および認知症と自動車運転」について述べたいと思います。
今週は3月27日~4月2日までとなり、年度末と年度初めの時期となります。
本校では4月2日土曜日に入学式があり、新入生を迎えます。新入生といえば、新人ドライバーが多く存在しますので安全運転で登校していただきたいと思います。
さて、近年、高齢者と自動車運転の問題は社会的にも問題化し、様々な対応や試みが行われてきています。
保険会社の調べでは、75歳以上のドライバーが起こす死亡事故の件数はほぼ横ばいですが、相対的に高齢者の事故比率が高くなってきているそうです。
その点から言えることは、高齢者ほどリスクが高くなるといえそうです。その要因の一つには脳機能の衰えが起因していることが知られています。
さて、高齢者ドライバーによる自動車事故には、ブレーキとアクセルの踏み間違いや、高速道路の逆走など重大事故をニュースなどで目にすることが増えてきました。
こうした状況に対処するため、高齢ドライバーに関連する道路交通法が改正されています。
2017年3月12日からは75歳以上の高齢ドライバーは3年ごとの免許更新時に認知機能検査が行われます。また、基準行為と呼ばれる特定の交通違反(認知機能が低下した場合に見られやすい違反行為のことで18種挙げられている)を犯すと、更新を待たずに認知機能検査を受検する義務が生じます。表1が18種の違反行為の内容となっています。
次に「認知症と自動車運転」について述べたいと思います。
今回の法改正前の2014年6月1日からは、認知症など「一定の病気等に係る運転者対策」として、日常診療において認知症またはその疑いのある患者が自動車運転をしていることを把握した場合、医師はその旨を公安委員会へ届け出る「任意通報制度」が開始されました。
届け出がなされた場合、公安委員会の命令により、患者さんは臨時適性検査として専門医を受診し、診断の内容によっては運転免許が取り消しとなります。
ただし、医師の届け出は任意であり、患者との治療関係から、実際の届け出は少ないのが現状であったようです。
この制度にかかわらず、認知症の病状によって、運転が危険な患者さんに対しては、ご家族の協力のもと免許証の自主返納を指導することもありますが、ご本人さんの強い拒否にあうことも少なくないと聞いています。
先程述べたように、2017年3月12日からは75歳以上の高齢者に対する免許保持や免許更新が厳格化されました。
75 歳以上の高齢者が運転免許を更新する際には、運転免許センターにて認知機能検査が行われます。その結果、第 1 分類(認知症のおそれがある)とされた人については、医師の診断書が求められ、認知症の診断書が提出された場合は、公安委員会にて運転免許更新が拒否されることになりました。
認知症の有病率から推測すると、認知症患者の免許保有者数は100万人近く存在している可能性があるとのことです。
認知症と診断されれば自動車運転が禁止とされていますが、どのような状態であれば運転を中断すべきかといった医学的基準や評価方法などが確立されていないのが現状です。
認知症といいましても、原因疾患によっても症状が異なり、軽度から重度までの病状の重症度も異なることから、事故の危険性には差異がある可能性があります。
従いまして、今後さらなる医学的検討が必要な分野です。そこで今回、認知症の原因疾患には様々ありますが、その中でも、4大認知症の運転行動の危険性につきまして、高知大学精神科の上村先生らの報告(表2)より紹介したいと思います。
4大認知症とは、1.アルツハイマー病(AD)、2.血管性認知症(VaD)、3.レビー小体型認知症(DLB)、4.前頭側頭型認知症(FTD)をさします。
認知症でも大脳のどこに病変や異常がみられ、その結果、そのような脳機能が低下するかによって、運転行動に差異が認められることを示しています。
認知症の原因疾患別では、アルツハイマー病(AD)患者は、41人中16人(39.0%)が事故を起こし、行き先を忘れてしまうなどの迷子運転や駐車場で車庫入れを行う際の枠入れがうまく出来ず接触事故を起こすことが運転行動や事故特徴として挙げられています。
血管性認知症(VaD)患者では、20人中4人(20.0%)が事故を起こし、その分析より、ハンドル操作や速度維持困難が要因と考えられたとのことです。
前頭側頭型認知症(FTD)患者では、22人中14人(63.6%)と最も高い比率で事故を起こしており、その特徴として信号無視や注意維持困難やわき見運転による追突事故が多くみられたとのことです。
全ての認知症患者さんの中で、事故率が高いのは前頭側頭型認知症(FTD)患者グループでしたので、今後は交通違反や交通事故の観点から、認知症の原因疾患や脳機能を含む認知機能との関連性を医学的に検討することが重要であると私は考えています。
また、軽度認知障害(MCI)の場合には免許停止とはなりませんが、6ヵ月に一度の再評価が必要となり、認知症への進行など見極めが重要となります。
日本の超高齢化社会の到来によって、医療福祉の分野だけでなく、このような道路交通安全のための社会作りが大切であり、一般の方にも、認知症患者さんの目に見えない問題についても理解していただきたいと思います。
以上、簡単ですが、「高齢者および認知症と自動車運転」についての内容でした。