2020.09.24 (木) コラム
【作業療法と異文化交流!?】 ~言葉が通じなくても作業が“ひと”と“ひと”をつなげる橋渡し〜
みなさんは日々生活する中で、自分が“日本人”であることを意識したことがありますか?
日本で生まれ育った日本人は、あまり意識することはないかもしれません。また、ニュースで“難民問題”や“人身取引”,“宗教問題”をみていても、あまりピンとくる人は少ないと思います。
もちろん、私もそうでした。青年海外協力隊として派遣されるまでは・・・
私は大阪で生まれ、奈良の学校を卒業後、京都→福岡→沖縄と精神科の作業療法士として働き、比較的様々な日本文化の中で作業療法をしている方だと思います。
特に沖縄は、日本の中でも独特の文化風土・習慣があり、本土と異なるアイデンティティを持っている方も多いと思います。街を散策して出会う三叉路の“石敢當”や“シーサー”も県外出身者の私とっては興味深い文化の一つです。
しかし、日本での作業療法は、多少の文化の違いを感じることはあるかもしれませんが、手法や活動内容はほぼ変わらないと思います。
例えば、身体障害領域の作業療法で入浴訓練する際は、湯船やシャワーがありお湯がでることを前提に行い、トイレ動作訓練は、下衣の着脱、トイレットペーパーを使用し便器に流す事を含め動作分析をするでしょう。
多くの家庭には湯船があり、蛇口をひねれば清潔な水やお湯がでることが当たり前で、トイレットペーパーを便器に流すことはインフラが整備された日本だからこそ意識することはないでしょう。
タイの田舎にある一般的な家庭なトイレ・浴室(訪問時に、入浴の仕方を見せてくれました。)
また精神科作業療法は日本文化が多く反映されています。
折紙を活動で用いたり、季節感や現実感の回復のため、クリスマスにはクリスマス会、正月には初詣で神社に行くレクレーションを実施します。
折り鶴作成は、“折紙”の概念がある日本人だから出来ることです。外出レクレーションを実施する際には、街の治安や、宗教の違いを考えることは少ないと思います。さらに社会生活訓練として、様々なスキルトレーニングを実施しますがそこには“日本人”として習慣やコミュニケーションスタイルが反映されています。
当然のことですが、日本では日本文化の作業療法を行っています。
前述で述べたように、私は2007~2009年まで青年海外協力隊※1としてタイに派遣されていました。
派遣先施設は『タンヤブリー貧困女性の保護施設』という女性専用のホームレス保護施設で、20代~80代の450名が入所しています。
7割の方が精神疾患をもっており、高齢化により身体的介護が必要とする高齢者や重度知的障害者もいました。東南アジア諸国では、医療福祉制度が日本のように整備されておらず、障害を持ったホームレスの方が首都を中心に物乞い生活をし、医療を受けれない方もたくさんいます。
派遣先施設では450人の入所者に対し、職員は40人程度という支援体制で、医療従事者は看護師一人でした。そのため、障害の軽い入所者が、職員の指導・指示のもと、より障害の重い入所者の介護をしており、カルチャーショックと職員へ批判的な思いが募りました。
しかし、生活をしていくうちにタイ人には仏教文化“※ทำบุญ(タンブン)”が生活に根付いていることがわかりました。
つまり“困っている人を助けるのは当たり前”さらにその行為は“徳を積む行いをさせてもらっている“また助けてもらう方も“障害も輪廻転生のひとつでさだめ“という意識があるということがわかりました。
文化や価値観の違いを実感し、私は作業療法士として450名の入所者に『生活の自立』や『心身の機能回復』を目指すのではなく、『今の生活をより楽しむ』ための“生きがいとなる作業”を提供したり、再び社会生活を目指す方には、就労支援・訓練を行いました。
集団レクレーションの様子
就労支援・職業訓練の様子
“言葉”と“文化”の壁がある中、現場にある物を利用し、レクレーション(集団療法)や物作り(個人作業療法)を行いました。
入所者の方の笑顔をみて作業療法士として“作業”がもつ力を実感しました。また入所者の「自主的に準備を手伝う」「場を盛り上げる」「積極的に参加の声かけをする」「私のタイ語をタイ語に通訳する」
という“コミュケーションに困っている日本人を助ける”と
いうทำบุญ(タンブン)※2精神に私も助けられました。
作業療法を通してタイ文化に触れ、助けられました。
国際協力で海外生活を経験し、作業療法の“作業”とは、その国の文化や価値観の中で健康と幸福(QOL:Quality of Life)を促進し、その人の目的や価値を持つ生活行為ということを実感できた2年間でした。
※1 青年海外協力隊(現JICA海外協力隊)…日本国政府が行う政府開発援助 の一環として、外務省所管の独立行政法人国際協力機構 が実施する海外ボランティア派遣制度
※2 ทำบุญ(タンブン)…仏教儀礼で、善行を積み重ねる行為のこと。タイ文化では輪廻転生が信じてられており、具体的には寺院や僧侶に喜捨寄進して善行を積み、また生活に困っている方に食事などを提供することで“来世は幸せな生まれ変わりができる“と信じられている