2020.12.17 (木) コラム
認知症と作業療法
今回は、認知症と作業療法について説明したいと思います。
はじめに認知症の増加傾向と定義について紹介し、代表的な認知症の4つのタイプについて説明します。
そして、最後に、作業療法の視点について説明します。
さて、現在の日本における認知症患者の増加は、社会問題の1つとして捉えられます。
2025年には認知症患者数が800万人以上になるとも予測されています。
これは私達の周りにも認知症患者がいることになりますので、認知症についての一定の知識や理解を持つことが国民全体に必要と考えられます。
従いまして、認知症は高齢者においてはごくありふれた病気と言える時代に変化してきているのです。
さて、認知症の定義ですが、
①一度獲得された知的機能が何らかの原因によって低下すること
②それによって社会生活や家庭生活に支障を来すこと
③進行性で意識障害がないことを特徴とする病態(症候)であり、病名ではないとの理解が大切です。
認知症の中で最も頻度の高いものはアルツハイマー病(以下AD)であり、認知症患者の約50%を占めます。
ほかには、主なものとして脳血管性認知症(約20~25%)、レビー小体型認知症(約18%)、前頭側頭型認知症(約5%)があります。これら4つのタイプが代表的な認知症です。
これらのうち、AD、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は、変性性認知症(神経線維が変化し、神経細胞死に至る)と言われ、脳出血や脳梗塞が原因で発症する脳血管性認知症とは区別されます。
さて、次に認知症の症状を2つの症状に区別して理解することが大切です。
1つ目は中核症状といいます。
これは病気の経過を通して存在する認知機能障害をさしています。そして、この症状は徐々に進行していきます。
2つ目は周辺症状といいまして、精神症状(うつ、アパシー、幻覚、妄想など)と行動症状(徘徊、暴力、無為、食行動異常など)があります。これは必ずしも全ての患者さんに見られるわけでなく、多くは一過性とされていますが約9割の患者さんに何らかの症状が出現するとのことです。
では、この4つのタイプの認知症の特徴について以下に述べます。
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アルツハイマー型認知症の特徴(進行度で、第Ⅰ期~第3期に分かれる)
ADの発症前の前駆症状としては、知的低下に先立つ2~3年前より軽度の人格変化(頑固、自己中心的、繊細さに欠けるなど)が起き、不安や抑うつ症状、睡眠障害が出現します。そして、発症を迎える第Ⅰ期では、約束や用件を忘れたりする記憶障害で発症し、見当識(日時や場所、周囲の状況や人物などを正しく認識する能力)も障害されますので道に迷ったりと社会生活に支障を来すようになります。その後、進行して第Ⅱ期になりますと、もの盗られ妄想(約50%に出現)や徘徊などの周辺症状や性格変化などが加わります。この時期には多くの周辺症状が出現することで、家庭生活も困難となります。更に進行して第Ⅲ期になりますと、脳萎縮が進み、失禁や拒食などがみられるようになり、発話もなくなります。そして、発症から約10年程度で寝たきり状態になっていく病気です。(画像では、側頭葉の萎縮が認められます)
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脳血管型型認知症の特徴
脳の病変部位によって症状は異なりますが、以下の5つの症状が代表的な症状になります。
1)感情、欲求の抑制の障害で、場違いに泣いたり笑ったりする「感情失禁」が見られます。
2)脳の病巣によって麻痺や失語、失行、失認などの症状が出現します。また、飲み込みの嚥下障害(仮性球麻痺)や構音障害の症状が見られます。
3)段取り良く行う、調理などの一連の動作ができなくなります(遂行機能障害)。
4)自発性や意欲の低下した(アパシー)症状ですが、うつ病に見られる悲壮感には乏しい状態です。
5)脳血流の低下のため集中力が保てず、間違いや失敗が増えます。
このような症状が、脳血管が障害される度に段階的に悪化します(下図参照)。
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レビー小体型認知症の特徴
レビー小体型認知症では初期より、パーキンソン症状(固縮という筋肉の硬さ、寡動という運動範囲の狭さ、振戦という指先の振るえ、姿勢変換することの障害)が見られますが、この症状は変動して出現し、家族は「昨日は良かったのに今日は悪いです」と訴えたりします。パーキンソン症状のため転びやすく、ADの10倍転びやすいとの報告もあります。また、記憶障害が軽く、前日の幻視の内容を覚えています。しかし、一方では簡単な図形の模写ができなかったり、時計の絵が描けなかったりします(目で見た物の形を作る能力や、目で見た物の形や位置を認知する能力の視空間認知機能が低下しやすいのが特徴)。幻視はレビー小体型認知症患者の約70~80%にみられ、その内容は人や虫などが鮮明に見えており、その説明はとても具体的です。また、誤認に基づく妄想(誤認妄想)が半数以上にみられます。例えば、子供が大勢きたと騒いだり、布団が動いているので妻が浮気をしていると思い込み(嫉妬妄想)、妻に暴力をふるう、といった幻視と一体化した妄想が特徴です。また一方では、意欲が低下するなどの抑うつ症状が高い確率であらわれます。この他には、自律神経障害(起立性低血圧、便秘、尿失禁)やレム睡眠行動障害という睡眠中に寝言を言ったり、体をばたばたと動かしたりする行動障害が見られる場合もあります。
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前頭側頭型認知症の特徴
初期には自発性の低下や感情鈍麻が見られる一方で、偏食や過食がみられます。食行動の変化(異常)としては甘いものを好む傾向が見られます。また、脱抑制(抑制、抑止力の欠如)と道徳観の低下によって、お店のものを持ち帰ってしまう(万引き)といった行動異常がみられたりします。感情の抑制や理性的判断に欠けます。中期になりますと、常同行為とよばれる同じ場所を繰り返し歩いたり(周遊または周徊)、オウム返しのように同じ言葉を繰り返したりします。毎日同じ時間に同じことを繰り返すといった時刻表的行動特徴も有しています。後期では精神機能が低下し、無動、無言となり寝たきりになります。
さて、ここまで、4つのタイプの認知症の特徴について述べてきましたが、中核症状の違いは脳の機能局在(各々の脳の部位に存在する機能)や、そのネットワーク機能の障害として出現しますので、認知症の理解には脳機能の理解が大切となります。
次に作業療法の視点について説明します。
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作業療法について
作業療法士は、認知症者の生活機能の維持向上を目指した支援を行います。しかし、認知症の症状は軽度の状態から中等度、重度へと進行するにしたがって日常生活の自立度が低下していきます。このような点から「生活の障害」とも呼ばれますが、最も重要な点は、症状は進行していきますが、その人らしさは実存しますので、認知症者の尊厳を大切にした視点で支援することが大切です。
認知症者を洞察する3つの視点について述べますと、1つ目には、前項で述べた、中核症状を理解するための脳機能の理解が大切となります。認知症者は中核症状の認知機能障害の進行に伴い、現実とのズレに戸惑い、不安や苦痛とストレスを感じていますが、それを伝達することができなくなるのです。このような場面での対応の仕方として、先に述べた中核症状や周辺症状を十分に考慮して行った援助であるか否かで、認知症者の状態が良くも悪くもなることがあるので注意が必要です。
2つ目には、認知症者の個性を知ることです。周辺症状(行動や心理症状)を理解する際に大切なことは、この症状の背景には、認知症者独特の心理特性が働いている場合がありますので、家族からの発症前の生活状況や性格特性などを聴取し理解することが必要です。認知症になることで、対処の仕方がうまく行えず混乱をきたします。しかし、個性として備わっている認知症者の対処行動パターンを知る上でも家族からの情報は大切です。また、同時に認知症者の家族に対しても、症状を理解してもらうために説明を行い、留意すべき対応についてもお伝えすることで双方の問題解決に繋がります。
3つ目には、認知症者が環境の変化に影響を受けるとの視点です。作業療法場面では認知症者の心身両面より評価を行い、個別的理解を深め、安心感や安全だと感じられる居場所となる環境(人的な部分と物理的な部分がある)を調整していきます。そして、作業や生活場面においては、残存している機能に働きかけ、情緒的(笑顔をふやせるよう)にも生活的にも落ち着いて過ごせるように援助していくことを目指します。そこで以下に小川らが示した、認知症タイプ別の、「活動における留意点の一例」を載せましたので参考にしてください。
以上、認知症と作業療法について説明させていただきました。今後、さらに認知症者は増えることが予測されています。身近な病気となってきていますので、少しでも一般の方にも関心を持っていただきたいと考えています。今回の内容が、皆様が認知症者に出会った時に少しでも活用していただけることを願っています。